日本語指導Q&A

※文中、「担当者」とは、日本語指導担当者をいいます。

2.継続学習の日本語について

Q1. 私は技能実習生の母語が全然できません。日本語指導の担当ができるでしょうか。

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A.  大丈夫です。技能実習生たちは母語に頼れませんから、日本語を一生懸命聞こうとするし、何とか日本語で言おうとするでしょうから、むしろ日本語習得にはよい環境といえます。ただ、日本語の音を聞き慣れていない人が多いのも事実で、日本人が普段話すのと同じように話すとなかなか理解できず、日本人としては「日本語が通じない、どうしよう」とあせってしまいます。そんなときは簡単な言葉で、ゆっくり、はっきり、短い文で話してください。必ず通じるはずです。
 なお、ポイントになる言葉は、ひらがな(カタカナ)で板書をしたり、紙に書いてあげるといいでしょう。その場で説明できなければ、あとで辞書で調べておくように言います。
また、絵、実物、ジェスチャーなど、見て理解できるものをたくさん使うようにするといいでしょう。

Q2. 1期生のときはとてもコミュニケーションがとれたのに、2期生からなかなか日本語が上手になりません。どうしたらいいでしょうか。

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A.  企業の日本人の皆さんは、コミュニケーションがよくとれる技能実習生ばかりに話しかけていませんか。急いでいる時や複雑なことを伝えたい時にはそれもやむを得ませんが、少しでも時間に余裕のあるときは意識して2期生3期生に直接説明したり、伝えたりするようにしてください。
 1期生が初めて来た頃のことを思い出してください。どうやってコミュニケーションをとっていましたか。ゆっくり話したり、紙に書いたり、いろいろ工夫をしていたのではないでしょうか。手間はかかりますが同じことをしてあげてください。ちょっとした雑談でも日本語力の向上に役に立ちます。作業時だけでなく休憩時間などにも日本人の方からこまめに話しかかけるようにするといいと思います。
 一方、技能実習生の方も先輩を頼ってしまうということもあるようです。何か問いかけられても、側にいる先輩が全部答えてしまうということもあります。話しかけるときは、その人の名前を言うようにしたらどうでしょう。例えば「○○さん、昨日はお祭りに行った?」のように名前を言えば、その人が答えなければならないことになり、コミュニケーションが生まれます。技能実習生も初めはとまどうかもしれませんが、日本語が通じる楽しさがわかってくれば、だんだん積極的に話すようになってきます。コミュニケーションをしなければコミュニケーションできるようにはなりません。できる限り話す機会をたくさん作ってください。

Q3.技能実習生が、専門用語や作業でよく使う言葉をなかなか覚えないので、仕事の理解がはかどりません。どのようにしたら覚えられるでしょうか。教材の作り方などがあったら教えてください。

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A.  覚えられない原因のひとつに、技能実習指導員などが言う言葉(音)が何を指しているのかがわからないということがあります。用語のリストを読んで丸暗記しただけでは、現場でその単語を聞いても、それが何を指すのかはわかりません。言葉と物・動作が結びつくような学習をする必要があります。その方法としては以下のようなものがあります。

  • [例1]
    使う道具、機械などを見せ、その単語の言い方を教える。技能実習生がそれをリピートする。次に、いくつか台の上などに並べ、単語を何度か繰り返したあとで、「やすりとって」「あぶらさしとって」などと言い、技能実習生がそれをとる。また「あぶらさしもってきて」と指示したら、「あぶらさしですね」と復唱させる。このようなことを日々、繰り返していくと、用語が覚えられるでしょう。ただ、一度では覚えられませんから、何度も毎日繰り返してあげることが大切です。
  • [例2]

    用語のリストを作って渡す。

    日本語 母語
    やすり
    あぶらさし
     

    左の欄に必要な言葉をあらかじめ日本語で記入しておきます。右は空欄です。技能実習生に実物を見せながら、または実際に作業を見せながら言葉を何度も言います。技能実習生も一緒に言うようにします。その後で技能実習生自身が右の空欄にその言葉が記憶に残るようなメモを書き込みます。母語でもイラストでも何でもいいです。自分で書くことによって記憶に残りやすくなります。できれば毎日作業の前に復唱するといいでしょう。

  • [例3]
    ポケットに入るような小さなノートを用意します。技能実習生がこれをいつも携帯し、大事な言葉があったら技能実習指導員などがその場で書いてあげます。そのとき何度か一緒に発音します。記憶するためにはやはり技能実習生がその言葉の横に自分で母語を書くとか、イラストを描くなどするといいでしょう。

Q4.私の話す日本語がわからないとき、技能実習生は「わかりません、もう一度おねがいします。」と言います。しかし何回繰り返してもわからないようです。どうしたらいいのでしょう。

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A.  繰り返す時、一度目と同じ速さで同じ言葉を使っていませんか。日本語が聞き取れなくて繰り返しを要求しているのですから、以下のように繰り返すといいでしょう。

  • (1)1度目より短い文で、ゆっくり言ってみる。
  • (2)技能実習生にとっては難しい言葉を使っていないか注意し、簡単な言葉で言い換えができるものはそうする。
  • (3)それでもわからないようであれば、動作をつける。絵や図を描く、字を書く。
    忙しいときには大変だと思われるかもしれませんが、受入れ当初に少し時間をかければ、後は楽になるようです。

Q5.日本語学習の自習用教材として、小学校低学年の国語の文章ドリルを毎日1枚出しています。初めは意欲的に取り組んでいましたが、最近はあまり喜んでやりません。他にどういう教材がありますか。

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A.  国語の文章ドリルなどは、文を読む力はつくかもしれませんが、技能実習生にとっていちばん必要な聞いたり話したりする力はあまり期待できません。それらを伸ばす教材を使うことが大切です。また小学生の国語学習の文は外国人にとってはけっこう難しく、内容的にも実習生活に役立つ言葉が少ないようです。これがあまり喜んで取り組まなくなった原因かもしれません。技能実習生が興味をもって取り組めるような教材を使った方がいいでしょう。
 また、以下のような身近にあるものも、教材として使えます。使い方のほんの一例をご紹介します。

[例]

  • 技能実習生の友』(JITCO発行)母国のニュース記事から技能実習生が興味を持ちそうなものを選び、母国語だけを見せ、その内容について質問したり、技能実習生に説明したりしてもらう。
  • スーパーのチラシ複数のスーパーのチラシを用意し、同じ商品の値段比べをする。
  • 商品のラベル食品なら賞味期限や産地などについていっしょに話す。
  • 旅行パンフレット母国への旅行案内が載っているものを用意し、パンフレットにある名所や食べ物について説明してもらう。

Q6.会社の職員は忙しいので、日本語の勉強をみてあげられません。独習できる教材を教えてください。

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A.  確かに直接勉強をみてあげられなくても、独習用の教材を提供するなど、技能実習生が自分で学習することの手助けはできますね。休憩室などに、以下のようなものをおいておくのもいいでしょう。

  • 技能実習生の友』(JITCO発行)漢字に全部振り仮名がついており、中国語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、英語の対訳もついているので、独習用としても使えます。ただ、わからないところがあったら説明してあげてください。
  • 日本語教材
    母語の説明がついているものがいいでしょう。インターネットで「日本語 学習」などで検索すると、いろいろな教材についての情報が得られます。
  • 歌のCDと歌詞
  • 雑誌
    技能実習生の興味がありそうなもので、写真や絵が多いものがいいでしょう。

 また、漢字のテストや日本語能力試験の練習問題などがパソコンの画面上でできるサイトがあります。パソコンを持っている技能実習生に紹介してあげると喜ばれるでしょう。

Q7.日記を書くように言っているのですが、書く内容がマンネリ化しています。何かいい方法はないでしょうか。

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A.  確かに、書こうと思っても書く内容が思いつかなくて困ることがあるかもしれませんね。以下のようにしてみたらいかがでしょうか。

  • (1)毎日書く場合
     短いものでいいことにします。たとえば3行だけ。しかし昨日と違うことを書くことを条件にします。
  • (2)1週間に1回だけ書く場合
     休みの翌日を提出日にします。長さは特に制限しません。書きたいことがたくさんあるときは長くなるでしょう。またどうしても書けないときは3行でもいいでしょう。
  • (3)日本語だけに限定しない
     イラストを描いたり漫画日記にしてもいいことにすると楽しくなります。
  • (4)コメントをつける
     書いた日記にコメントが書いてあると「また書こう」という意欲につながります。短くていいですから、ひとこと書き添えるといいでしょう。また日記を返却するときに、感想を言ったり、日記に書いてあることについて「どう?面白かった?」などと質問をしてもいいかもしれません。でもあまり追求するような質問は避けたほうがいいでしょう。
  • (5)テーマを決める
     例えば、「家族の紹介」、「日本と私の国と違うこと」(食べ物、気候、買い物などいろいろ)、「お祭りや地域の行事」、「昨日見たテレビ番組」、「最近のニュース」などテーマを決めると、具体性が出てきて書きやすくなるでしょう。
     テーマは、作業について最近できるようになったこと、昼休みに日本人と話したことなど何でもテーマになります。

Q8.技能実習生の人数が多いので、日記の添削が大変です。そもそも添削とはどのようにすればいいのでしょうか。「てにをは」の訂正も、説明を求められたら答えるのは難しいです。

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A. 技能実習生の人数が多いと、目を通すだけでも大変ですね。他の業務もたくさんあるのに、添削もしようとなるとその負担はいかばかりかと思います。
では、そもそも何のために日記を書くのでしょうか。いくつかの理由があると思いますが、その目的に応じて、負担の少ない添削のしかたを考えてみましょう。

  • (1)日本語学習の手助け

     話すことに比べ、書くことは、助詞に気をつけたり、言葉の並べ方、文のつなげ方などにも気を使わなければならないので大変です。漢字も一生懸命書こうと思うでしょう。技能実習生も自分の文が添削されることを望んでいると思います。そのような場合は、先ず、技能実習生と以下のような取り決めをして、自分でできることはしてもらいましょう。

    1. 間違った助詞は訂正するが説明はしない。使い方はそのまま覚えること。
      ただ、「会社で休む」と「会社を休む」は意味が違います。このように意味を取り違える可能性がある場合は本人に確認してから添削しましょう。
    2. 誤りのある漢字は赤丸で囲むので自分で辞書を調べて直すこと。
    3. よくわからない文には下に線を引くのでもう一度書き直すこと。
      書き直した文にまだ問題があったら理解できる文に訂正し、それでいいのか確認します。
  • (2)技能実習生とコミュニケーションをとるための日記
     理解ができない文章には下線をひいて書き直してもらうことは(1)と同じですが、簡単なコメントを添えてみましょう。どうでしたか、どうしてですか、どう思いましたか、などのひとことだけの簡単な質問です。そして、口頭でも同じような質問をしてみましょう。この場合は、文法や単語の間違いは一度にたくさん指摘せず、少しずつ訂正していくようにすればいいでしょう。
  • (3)実習日誌も兼ねる場合
     これは、どんな指示を受け、何に注意して、何をどうしたのかが大事な内容になりますから、技能実習指導員にも目を通してもらうといいですね。実習指導の確認にもなっていいと思います。この場合は日本語の添削ではなく、実習したことが書けているかどうかをチェックします。

 添削する日記が多い場合、添削の回数を減らして1週間に一度の提出にしたり、書く量を5行なら5行までと制限したりすることなども考えられます。

Q9.非漢字圏の技能実習生が楽しく学べる漢字の学習方法を教えてください。

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A.  日本語の習得に漢字学習は避けて通れないとはいうものの、非漢字圏の技能実習生にとってはただ繰り返し読み、書いて覚えていくという方法では負担になるばかりでしょう。漢字が読めると楽しい、漢字はこんなに楽しいんだと思えるような教え方をしたいものです。
 ある外国人が、漢字を勉強したおかげで、何の意味も持たなかった街の看板や書いてあるものが全部意味を持つようになった、私の世界がすごく広がって嬉しい、今は漢字の勉強が楽しいと言っていました。
では、企業の方にも手軽にできる漢字学習の一例をご紹介します。

  • (1)漢字カードを作る

     技能実習生がよく目にする漢字や覚えてもらいたい漢字をリストアップします。葉書大ぐらいの紙を用意し、表に漢字一字、裏に読み方を、音読みはカタカナ、訓読みはひらがなで書きます。例えば、「安全第一」なら4枚、カードを作って、それぞれに「安」「全」「第」「一」と1文字ずつ書き、4枚並べて読み方と意味を教えます。次に、ばらばらに並べて、これを技能実習生が正しく並び替え、読んで、意味を言います。

    ばらばらに並べて正しい順番に並び替える

     次に、だんだん漢字を増やしていって、かるた取りのようにカードを取って並べて意味のある熟語を作って読む練習をします。

    漢字を選んで熟語を作る

     また、「安」は「安い」、「安心」の「安」ですよ、「全」は「全部」の「全」です、と普段使っている言葉と漢字を結びつけて教えます。
     スーパーの天井にぶら下がっている案内板の漢字や、病院の看板、商品のラベルなども面白いかもしれません。毎日、少しずつ、わずかな時間でいいですから、ゲームをする感じでやるといいでしょう。

  • (2)担当者から漢字を提示するだけでなく、技能実習生にも街で見て気になる漢字などを集めてもらいます。漢字への関心も出てくると思います。例えば店頭の商品名や説明などの漢字を写してきたら、正しい書き方と読み方を教えます。意味はできるだけ辞書で調べるように言います。このようにすると、技能実習生も読める漢字がずいぶん増えたと思えるようになり、漢字学習が楽しくなって自分で学習できるようになると思います。
  • (3)漢字の成り立ちを知る

     漢字の成り立ちから知って学習すると漢字が好きになる人が多いようです。
     例えば、下のように、実際の物の形と漢字の形を連動させて漢字の意味を覚えます。「日」だったら太陽の形、「月」だったら、雲がかかる三日月というようにです。

     このふたつを覚えたら、「明」は、日と月があってとても明るいと覚えます。

     このように、漢字に意味づけをして覚えていくと楽しく覚えられるでしょう。こういった内容で編集された市販の教材もいくつかあり、英語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語などの説明が入ったものもあります。日本語教材を扱っている書店やインターネットで購入することができます。